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技術について

Bespoke Tailor Dittos.
  • 【 TAILORING-5 】

    2026.07.21 Bespoke Tailor Dittos. 技術について

    【 TAILORING-5 】

                古き Savile Row での裁断風景です。 私達テーラー(CUTTER)はこのようにクライアント様の型紙を引き、 ルールに伴ってパズルのように効率よく蜜に型紙を並べ 裁断して参ります。 この風景は今でも変わりようがありませんが、大量生産を前提にみれば 機械化は進み 型紙レイアウトもPC内で行い、レーザーで綺麗に素早く裁断が出来ます。   ですが、この写真の様に格子柄になると二重に畳まれた生地を裁断する際 上下の生地で柄合わせが必要になるので 工場さんでも手裁ちは残っています。       この写真に使われている生地はグレナカートチェックでしょうか。 前身頃と後身頃で逆さま、山袖と谷袖も逆さま、JKとWCでも互いに逆さま、 この方が効率よく蜜に裁断出来るとの優先順位であり、 昔の一着分に伴う用尺が短いのは こういった要因も含まれているでしょう。   ですが、カシミアなど毛並みのある生地含め方向性のある生地は 必ずや一歩通行で生地方向を全パーツ合わせなければなりません! 触り心地は勿論の事、生地方向で見栄え的な色味さえ変わるのですが コーデュロイやベルベットなどは特に顕著ですね。   写真で裁断されている生地はグレナカートチェックと仮定した場合 厳密に言えばグレナカートチェックには天地(柄の上下)があります。 故に本来では一方裁ちが望ましく、特に丁寧な日本では重要視されているとも言えます。 その分 生地用尺は増えるのでコスト高ではありつつも、、、 業界人でない限りは そんな一方裁ちなんて なかなか気付かれないかも知れませんね。                   コート(上着)の襟型製図ですね。 左からノッチドラペル用、ピーク用、ショール用と並んでいます。 根本的な製図方法はどの国においても大きく変わる事はありません。 ただ、衿腰幅や寝かし量、デザイン線的な部分は違うでしょう。   因みに、ショールカラーを頭にイメージされてみて下さい! ノッチやピークの上襟は、左右でのゴージラインまでがそれぞれの上襟エンドです。 しかしショールカラーの上着はゴージラインが無いですよね!   実は地襟自体はノッチやピークに同じく(上図)ゴージラインで切り替えています。 しかし、上襟となる部分は身返し自体で一緒に補うよう長くとられ、 ゴージラインを覆い隠し、首の後ろ(バックセンター)でエンドとなり接がれているのです。 これはエンドライン自体にノッチ(刻み)やピーク(尖がり)が 無いからこそ可能な芸当となるのですね。                     裁断書に関しては 先人たちの遺した貴重な書物が結構残っています。 しかし、縫製書はそれと比べて本当に少ないので貴重です。   上の写真、左中にはBODYの襟ぐりが見えますね。 そこに合わせて『地襟』をクセ取りして付けようとしている所です。 鎌襟、棒襟、そして標準的な襟、、、この辺りは別の機会にしますね。       今週は当店のクラフツマンシップをご覧頂くべく TAILORINGにおける続編、襟作りに関し 皆様にご覧頂きたいと思います。   当店 BESPOKE は当たり前の事ながら、HOUSE STYLE ORDERによる 『上襟ハンド仕立て』のオプションをお付け下さる方々も じっくりご覧頂ければと思います!                           BODYは襟・袖のな無い『ちゃんちゃんこ』状態になりました。 襟ぐりを整え、型紙を当てて正確な現物距離(付け寸法)を測りますよ。                   襟の型紙は必ず人それぞれに準備してありますので、型紙よりやや大きく 荒立ちして芯地を裁断、裏にはカラークロス、一部伸び止め力芯とでセットし、 それぞれの素材を一つの『地襟』とすべく ハ刺し にて縫いまとめて参ります。   地襟の芯地、これは贅沢にも IRISH LINEN を使用しています。 業界では通称「エラス」と言い、これはエラステックからきています。   バイアス(生地の縦横に対して45度の斜め方向)で裁たれた芯地は あたかもゴムの様に伸び縮みするのです。   襟とは人間の首に伴い、ぐるりと覆うカーブ線を描く事、 そして縦方向・首に沿うように昇っていく様なカーブを描かせます。 この複雑怪奇な形状を立体的に表現するには この麻のバイアス芯が一番優れているという事ですね!   成形に純真で素直、それなりのハリコシを持って安定的な形状を保ってくれます。 新品時は(意図的に)やや確り感がありますが、 着込めば麻の芯地はクタクタに柔らかく馴染んで参ります。     カタカナの「ハ」に見えるからハ刺し、ピッチや方向、指し方に違いはあれど 目的は皆同じです。 ただし、これも価値観により 糸やピッチ、指し方も色々です。 強いてメリットを活かすとすれば、、、と考えるとより良き手法に導かれますが、 それらは往々にして時間が掛かってしまう方向に進むのですね。 こんな見えない所でも差が出るものなのですが やはりほぼ気付かれぬ部分でしょう(笑)。                 ハイ、ハ刺しが刺し終わり、BODYに縫い付ける部分のみ 綺麗に出来上り線でカットしました。 (地襟・下部=ゴージラインから衿腰部)   私自身は地衿の型、サイズを意図に基づき制御しますが、 大きめにザックリサイズでハ刺しし、BODYに宛がい 適正サイズで切り落とす手法もあります。 ですが後者はハ刺しの糸を切る事になりますし、 過剰な面積へのハ刺し自体も無駄となるので個人的には好きではありません。                 バキューム付きのプレス台へ来ました。 地襟は先ず返り線で折り返し、 そしてクセ取りにより UFO の様な形状に成形します。   これで首を縁取るカーブの印象が出てきましたね!                   裏側、カラークロス側であり、折り返された衿腰部が見受けられます。   このカラークロスはウールの織物であり、やはりバイアスです。 とても柔軟で成形が効き、もう一生 衿芯と共に一体化され 連動します。 オーバーコートの場合は襟を立てたりもしますので、 共生地を裏にも使用する事があります。 ただ、共生地の場合は襟裏に特化した性能を持つカラークロスより 「その個所では」性能が落ちますのでデメリットが幾つか発生する事になります。 故に優先順位は? が決め手となります。                 衿腰がベタっと返り線と共に引っ付くほどの状態では、 襟ぐりの付け寸法自体はかなり伸びている現状にあるのですね。 故に襟腰のみ 改めてクセ取りで縮めると付けやすくなります。 衿腰部が少し立ち上がりましたね、これが付け寸法が縮んだ証拠であり、 距離が短いので座る事(接地する事)が出来なくなったという事になります。   この付け寸法(襟腰)は、どうせ縮ませ過ぎてもBODYの 襟ぐりカーブに合わせれば自ずと適切な距離へ戻ります。                   BODY(襟ぐり)に重要なポイントを優先的に合わせ、 躾で縫い留め セットします。 背中心線、肩縫い目、そして返り線(ラペルとの連動)、 ゴージラインと言った具合です。 肩傾斜など左右非対称度合いが大きな方は、左右で襟ぐりの距離も変わります。 なので当たり前なのですが、肩パッドや地襟自体も非対称で作られています。   躾で仮止めしたら「カラゲ縫い」という手法でBODYに縫い留めて参ります。 このカラゲ縫いとは解れ止め効果もあり、 形状が三角となる千鳥縫いよりも細かく縫われます。   襟芯(麻)は目立ちますので絶対に見えないように隠したいですね、 カラークロスのエッジより 0.5~1㎜くらい控えて裁ち合わせております。 (正確には襟芯の幅が正しく、+αをしてカラークロスを裁ち合わせます。)   確りと地襟がBODYに縫い付けられましたら簡単に部分プレスして 地襟とBODYを馴染ませておきます。     次は上襟(共生地)ですよ!               冒頭の写真でご覧頂いたように、身頃や袖など主要なパーツは型紙を当てて裁断します。 その時には必ずロス(隙間)が発生する訳ですが、 実は『ここで〇〇をとろう!』と加味しながら裁断レイアウトを決めています。   残った残布より、ポケット作りに伴うパーツや、 後に作る上襟などは確保しておかなければなりません。 ターンバックカフス付きのご注文であれば結構な横地を確保しておく必要がりますね、     この写真は上襟用にキープしておいた残布であり、細長い横地です。 チャコで矢印が見えますが、生地方向であり、後身頃の裁断方向でもあります。 後身頃と上襟は連動していますので必ずや方向を合わせなければなりませんから すぐに分かる様 残布には矢印を入れておきます。 (これに同じ行為が必要なのが腰ポケットのフラップや、胸ポケットの口布です。)     おおよそで目で追える程度に横地の目を合わせていますが、 まだ正確な100%の横地ではありません。   という事で、、、地味に緯糸(横糸)を抜いて参ります! 端から端まで ピーっと一本の横糸で繋がって解けるまで続けていると、、、 だんだんマフラーの様なフリンジ状になってきますよ。   これが格子柄であれば、横縞を追って直ぐに100%の横地の目が導けますが、 無地や縞柄、更には起毛されたフラノなど微塵も横地の目を追えませんので この様に地味な作業で100%正確な横地の目を導きます。                 端から端まで横地が通ったら はみ出したフリンジ状の経糸をカットします。 これで完全・完璧な横地の目が拾えましたね!                     その整えた横地(写真では上辺)を襟のエッジに見立て、 上襟自体を荒立ちで裁ち合わせます。 一部印(切り躾)がありますが、主要なポイントと共に返り線ですね。 これはクセ取りを行う際の目印となります。     正に一直線な上襟エッジ、こんな直線が地襟に付く訳がありません! そこでクセ取りにより整形して理想的な襟型へと動かすのです。                       地襟(芯)でも UFO型にしましたが、上襟も一緒です。 一体化させて一つの襟となる訳ですから当然ですね。   カーブの具合、寝かし、それぞれ意識して! 更に、、、                   更に、、、見えますでしょうか⁉ この生地はヘリンボーンであり、縞柄です。   100%の横地であるエッジラインがカーブで曲がりました。(曲げました。) その際、縦地となる縞柄は綺麗に直下線で落ちるよう強制的にクセ取りで仕向けます。   生地とは縦糸と緯糸の交差であり本来であれば格子柄は直角・平行で構成されていますね。 であれば、緯糸に対し経糸は直角前提で考えると この様に縞柄は直下線ではなく扇方に向く筈です。 それを無視して強制的に直下線で成形させる、これも正にクセ取りです。                 次は、エッジ(100%の横地)を一縫代で予め折り畳んでおきます。 ここには出来上り線でカットされた麻の地襟芯のエッジを スポっと覆い隠す事になります。   綺麗なライン、、、、これを経験により身体に覚えさせておかねばなりません!               随分と撮影なく進んでしまったようです、、、。 本当は撮影している事自体不効率で面倒ですから ちょっと集中すると直ぐに忘れて進行してしまうのですね(汗)!   順を追って上襟の共地を地襟に躾していき、馴染ませて一体化させます。 「上襟据え」という工程ですが、据えが終われば まとめ(手縫い工程・縫い留め)ですよ。 それが この写真の状況です。   エッジはやはりカラゲ縫い、 カラークロス側から針を刺しているのがポイントです! 勿論エッジから指してもカラゲ縫いは出来ますが、 その針を刺す方向でさえ意味があるのですね。                 アップで見辛いですが、右側の衿刻み部『ゴージライン』です。 ゴージラインは縫い方が変わって「梯子まつり縫い」にスイッチです。   緩く縫い過ぎると縫い目は笑い(口が空くように開く)、 きつ過ぎると地の目を歪めます。 適度な頃合いで縫わなければなりませんよ!   下の写真では分かりやすいと思います。 縫った糸があたかも 梯子 の様に左右へ渡っていますね! 縫い加減も重要ですが、ゴージラインに対し 平行・直角で保てなければ地の目は歪みます。   そんな顔である襟部のコージラインですが、 ハンドメイド以外の服は全てミシン縫いされています。                         まとめ(手縫い工程)が終われば部分プレスで上襟自体を 確りと地襟に馴染ませるようにプレスします。   ゴージラインが返り線の向かって上りゆくカーブ線である事が見受けられますね。 ゴージラインとは 本来では「襟ぐり線」であり、 カーブ線ですから これがリアルで本当にあるべき姿です。   大量生産ではミシンでゴージを縫いますし、これら曲線を無視して 直線に修正され設定・製造されているのですね。 そりゃあ 直線より曲線の方がリアルでありつつ色気がありますよね!     如何でしょう、、、首を縁取る綺麗なカーブ、首に寄り添うような立ち上がるカーブ、 人間がどれだけ曲線かがお分かり頂けるでしょう。 だからこそ難しく、それを成し得るのが職人の技術なのですね。           ここで少し名称(呼称)について一応整理しておきましょう、 襟・衿・・・洋服と和服的な区別もありますが同じで結構です。   上着の衿と言えば 下衿(ラペル)と上衿にて構成されています。 その上衿とは 地衿(裏であり、土台であり、芯地)と上衿(共生地衿)で構成され、 まとまり一体になると上衿と呼ばれます。 面倒ですから覚える必要はありませんが(笑)、 今回の様な話では分離して呼称しなければならないのですね。         お疲れ様で御座います、、、後もう少し!                       衿付近までは裏地を既に躾し、据えておいた状態になります。 衿の工程が終わったので、その部分(衿周り)の裏地を最終的に据えて参ります。                 ここは裏側(内側)の肩縫い目です。 前回 表地は沢山のイセ込みが内蔵されていましたね、 当然ながら同等か+α位のイセ込みを裏地にも入れておかなければなりません。 なおかつ、そのイセ込みは乱暴だと直ぐにギャザーの様になってしまいます。   裏地側は直接身体に触れる内側です、 少しでも無駄な凸凹は無い方が良いに決まっていますね! 実際 凹凸があれば凸の部分が優先的に摩擦を受けるのでダメージが集中します。     理想的であり、かつ最高とは、、、 考え出すとキリがないのが職人の世界でもあります!                           ふぅー、皆様もお疲れ様で御座いました。 最終プレス、仕上げではフラワーループを縫い付けて!     フラワーホールは第一釦ホールの名残であり、 その名残に花が飾られるようになったのでフラワーホールです。 その花の茎やシルバーのフラワーホルダーなどを 留めておくのでフラワーループなのですね。     実際に使われる方は少ないでしょう。 ではいらないのか⁉ そうではないのが伝統的な紳士服ですよね!           最後に ウインザー公の格子柄スーツをご覧頂き 締めと致しましょう。               ハンドメイドで仕立てられた掛け替えなきBESPOKE SUITS。 その上襟は 今回ご覧頂いたように、100%の横地拾いによりクセ取りで成形され、 美しく上襟へと成り立ちます。   格子柄であれば この様にエッジに100%の横地が綺麗に縁取る事になります。 これがあるべき姿であり、仕様となります。     では、大量生産含めハンドメイドではない上襟はどうなのか、、、 1着1着 クセ取りした上襟を躾で据え、手縫いで縫いまとめるなど出来ませんね。 そもそもTAILORではない方々は クセ取りはしない・出来ないという事になります。   故に、残しておいた横地残布に 既にUFO型の襟型で裁断して地衿と結合します。 そうなれば上襟のエッジはカーブ線に伴い 斜めに横地柄が切れて エッジに沿って平行に通らなくなる事を意味します。 そして横地の目は通っていなければ(切れていれば) より生地は伸びやすく、 裏側には部分的に接着芯をも貼ってしまうのですね。     横地を通す行為とは、見栄えの為だけに行う技術ではないという事です。     横地を通す事により見栄え的な美しさは勿論の事、生地の安定感が全然違うのです。 勿論BESPOKEでは接着芯も貼りません。 されど 切られた横地(近バイアス)は伸びてしまうので接着芯で留めますが 硬くなりますし、剥離の懸念や、クリーニングなどによる縮みの懸念もあり 接着芯自体を出来れば使わない方が良いに決まっています。   1年、5年、10年と着用を重ねた時、その上襟の違いはどうなっているでしょうか。 とても大きな差が付く事は明白です。   ここでポイントとなるのが手作りなBESPOKEは 数十年着用する事を前提にして仕立てられます。 大量生産の服は直ぐにくたびれ、型崩れを起こし、へたりやすいと言えます。 だからこそ次が売れる訳ですし 買ってもらわなければなりません。 それ故のお値段とも言えます。   では そう考えると高級なブランド品は品質(仕立てレベル)と 値段が見合っていませんが、ここはここで また違った価値観がありますよね。         より良き品質を求めれば不効率なハンドメイドしかなく、 それが発祥でもあり 先週のVINTAGE SUITINGなどにも通じる部分も多々御座います。 先人から培われてきた技術は機械化できぬ事ばかりです、 だからこそ修行して技術を身につけ、磨き続ける必要があるのです。     掛け替えなき手作りの洋服を纏った時のご満足度は 格別である事が当然でなければなりません。 そんな当たり前のことを当たり前に成し得られるよう 日々精進致します。       少しでも高度で手作りな温もりのこもった仕立服に ご興味を持って頂けましたら何よりの幸いで御座います。         皆様、どうか引き続き宜しくお願い申し上げます。 今週は特に長く、本当に最後までお付き合い頂き 誠に有難う御座いました。   皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。            

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  • 【 TAILORING-4 】

    2026.06.09 Bespoke Tailor Dittos. 技術について

    【 TAILORING-4 】

            6月に入ったばかりのこの日、 満開の紫陽花たちは準備万端で梅雨を待っているかのようでした。 可憐で愛おしい紫陽花も季節を感じさせてくれるお花ですよね。   関東甲信でもいよいよ梅雨入りが発表されました。 暫くは湿度高き鬱陶しい時期では御座いますが、 恵みの雨を有難く思って過ごせればと思います。                               1923年 A.イーデン氏はこの年初婚となる奥様と共に。 ブラックラウンジスーツの着こなしも素敵ですね。   まだまだ誂えが主流だった時代、紳士の装いを支えていたのは サビルローの卓越した職人たちの技無くして語る事は出来ません。 先人の諸先輩方が築き上げてきたテーラードの技術は本当に尊きものなのです。               今週はテーラリングの続編を書かせて頂きたいと思います。 今回の工程は『 肩入れ 』であり、 肩の地縫いを主体にご覧頂きたいと思います。                         単純に『肩』と言っても、人それぞれに幅や傾斜の違い、 そして左右非対称も有り得ます。 ショルダーのデザインは 時代により(価値観により)肩のシームや 構築的なデザインまで含めればかなり多岐にわたります。     先ず根本として、背中には大きく立体的な肩甲骨がありますね。 起伏度合いも人それぞれですが、腕の稼働には欠かせぬ骨であり関節です。 また、女性と比べ男性は筋肉質でもあり 広背筋や僧帽筋などで覆われた背中は広く、 その様より『背広』の語源になったという説もあります。   立体的で動きやすい服(背中)を作る上では 欠かせぬ技術として縫縮(イセ)があります。 AとBを縫いで接ぐ折、同等距離ではなく 敢えて一方の距離を長くし(仮にB)、 長くない方へ(仮にA)強制的に縮めて縫い繋ぐ行為を指します。 フラットなA面に対し、強制的に縮め込んだB側には 立体感が生まれる・生ませるという事になります。   この縫縮(イセ)を利用し、立体的な肩甲骨を包み込み、背幅に産ませたユトリは 運動による可動域も広げる事となり、 骨格的な前肩の方にも追従し得る事にも繋がるのですね。                 ・・・・・この縫縮(イセ)は『イセ込み』などとも呼ばれ、 その量が『イセ込み量』となります。そのままですが!   イセ込み量は多い方がより立体的になりますが、 その量が多ければ多い程 こなす高き技術力を伴います。 そう、その「こなす」という行為を軽視すると ギャザーな縫い目になったり、波打つ後肩になりかねません。 これは各生地たちの特性にも考慮が必要となります。       イセ込み量自体も人それぞれであり 多ければ良いというものではなく、 あくまでも必要な時に必要量を自由に入れ込む技術を有しているかが要です!   卓越した技術により生み出された広い背中は起伏のある立体感と共に 背中のフォルムに寄り添い、その縫い目はギャザーの様に縮めた形跡など 微塵も見せぬものです。   下の写真は仮縫い時ですが、片側で2㎝のイセ込みが内蔵されています。                           ・・・・・脇が入り、裏地据えも終わりました。 では実際に肩入れをご覧頂きます!     『イセ込み』 テーラードがお好きな方であれば耳にされた事もあるでしょう。 色々な個所で色々に多用される技術ではありますが、 一般的で有名な個所は肩、そして袖付けとなるでしょう。   肩の場合、肩幅に伴い肩の縫い目長が決まると言えます。 その肩に際し、前の肩縫い目より後側の縫い目を意図的に長く設定し、 前の肩縫い目に合わせるよう半ば強引に縫い縮めます。     上の写真では前後の肩線を合わせて仮置きしている所です。 左側に弧を描く切り躾、ここに上衿(地衿)が付く襟ぐりの線です。 反対の右側、ここがアームホールであり袖が付けられる線です。 ネック側で前後のポイントを合わせると、 後ろの方が前の肩幅よりはみ出している事が分かります。 この差寸が意図的に与えたイセ込み量であり、 今回縫い込む(縫い縮める)分となります。   これを縫い込んで肩は前と同距離にしつつ、 後ろの背幅には確保された幅(ユトリ)が確保される事になるのですね。       単純に言ってしまえば、量が多ければそれだけ立体的に成り得ると言えますが その量自体をこなして いなす技術も必要となる訳です。 故にお安い紳士服であるほど イセ量も少なく、線も優しく全体的に 平面的で作りやすく、弊害の起きにくい無難な作りになると言えます。   ですが、いくらハンドメイドでも体系的にほぼ不必要な御方もおりますので そういった方ですと1㎝未満の方もおられるのですね。                   ネック側、そして逆サイドのアームホール側で 各交点のポイントを合わせピンで仮打ちました。 浮き上がってしまっているのが後身頃の肩であり、 浮き上がり過剰分がイセ込み量となります。 こう見ると結構ありますよね!                     その浮分(イセ込み量)を均等に分けセンターにピン打ち。 同じくらいの山に見えますよね、これで地縫いします!   ですが、この様にバランス良く分散する場合が多い中 肩甲骨の隆起度合い、位置に合わせてイセ量を敢えて 不均等に狙うところへ多めに配分する事もあります。                   チクチク、、、手縫いによる地縫い。 手縫いではこの様にイセながら直縫いが出来ますが、もしミシンで縫うのであれば 後肩縫い目付近にグシ縫いを先に入れてギャザーの様に絞り込み、 プレスで潰して予め前肩と距離を合わせてから縫う手法もあり、 それなりのイセ量がある場合のミシン地縫いであれば本来急には縫えません。   あっ、ですが量が多くなければ確か今は(結構前から) イセ込み出来るミシンすらあったような⁉ それはそれで優れもの、イセ量はともかく 大量生産が主体である縫製工場さんでは その様に様々なパートがマシンで出来るように開発・発展してきた訳ですね。   肩イセは むしろ縫う事より「処理」と「こなし」のテクニックの方が重要と言えます。 イセ込みを入れ込む(縫い込む)事は出来ても、 ギャザーの様に皴(襞)が出てしまうようではなりません。 そのイセ量を有効活用できつつ最大限に利用出来るこなしのテクニック、、、 イセの「殺し込み」から既に勝負は始まっているのです!               上の写真では両サイドのエンドにピッタリと合わせ 地縫いが終わりました。 後の肩は波打っていますし、前の肩は強制的にイセ込まれた その量に耐え切れず 実質的には少し伸びてしまっている筈です。   これからアイロンで縫割りを掛けますよ!                 鉄万というTAILORには欠かせぬ道具に乗せますが、 これは部分アイロンなど限られた箇所のみクローズアップして作業が行える 鉄製のまんじゅうの事を鉄マンと呼びます。   アイロンをかける為にセットしますが、 シームは前身頃の肩線に(直線や曲線)準じるように。 後身頃側を多く乗せ、この波々を潰し込む(殺し込む)のですが 肩甲骨のほぼTOPにくる背幅計測ライン付近まで殺し込みます。 この殺し込みが背幅設定位置を超えてしまうと 折角与えた背幅のユトリを狭めてしまうので本末転倒ですね! その位置を意識しながらガッツリと殺し込みますよ!   大きな所帯のTAILORであれば分業制は当たり前です。 しかし、理想論を言えば採寸した者がクライアントの体型的特徴を 一番理解しているのですから型紙を引きつつ仮縫いのフィッティングを行い、 そして本縫いへ挑む事。 設計的意図したイセ量含め、肩甲骨の隆起度合いや位置なども踏まえ、 アイロン操作の全てにおいて体型を念頭に操作が出来るという事になります。                         綺麗に割れましたね! イセ込まれに耐えきれずに伸びたであろう前肩長は この時に距離を戻しつつ潰します。 後身頃の肩部に伴う地の目は綺麗に整っていますか、 2㎝もの量が強制的に縫い込まれている様には見えませんね、 見えるようであれば殺し込みが足りません。     前後の肩縫い目には 行く末にお直しが出来るポテンシャルとして 縫代が多めに付けられています。     この縫代は必要であれば今後「出せる!」という事です。             例えば、、、       息子にスーツをおろす頃になった場合、大抵は息子の方が大きい! 着丈を伸ばしたい時には裾でも出しますが、 肩から出して丈を稼ぐ事も可能です。 ですが その副作用としてはカマ深は深くなり、 ゴージラインは足した分 下がる事になります。   また、肩傾斜を合わせ直す場合にも利用できますね。 他にも鍛えた、太ったという身体の厚みに対して充当する事も考えられます。 ですが、お直しにはそれなりに副作用もセットで付いてくるので 何を最大尊重するのかによりお直しの術式を決めると言えます。     因みに、、、、上襟の『ヒゲ』は御存じでしょうか⁉               ちょっと工程をワープしていますが(笑)、、、。   コレですね、上襟の刻み部 裏側には共地の折代が敢えて折り返され隠されています! なんか不自然ですね、高級なテーラードクロージングには結構付いているでしょう。     この ヒゲ=折代 の正体・意図は何なのでしょうか⁉   最後に洋服好きな皆様へ なかなか聞く事がないであろう リアルな小ネタをお話致しましょう。                   先の肩縫い目を思い出して下さい。 肩の縫い目にはポテンシャル足る縫代が多くつけられていましたね! そのポテンシャルを引き出す必要が訪れたと仮定しましょう。     襟ぐり線はグルリとCの字に円を描いている訳ですが、 肩の縫い目で+αした場合には その襟ぐり線自体も+α分 距離が延びる事になりますね。 そうすると、 外した襟は距離不足で元通りに付け直す事が出来ません‼ 大変です‼     実はこの問題をクリアするのですね。     上襟とは、表面の共生地、そして裏側の地襟(芯地)で構成されています。 裏側の地襟芯地やカラークロス(裏のフエルトのような当て生地)は いくらでも「替え」がありますので、 大きくサイズ合わせした地襟を またハ刺しして作り直せばよい。   ですが、大抵の場合 表地の共地はもう手に入りません! となってしまいかねませんね。 さっきのお話では襟ぐりが足された +α分 距離が延びてしまいました。 であれば、この折代(ヒゲ)で帳尻を合わせて(引き出して)上襟を 掛け直せばよい! という具合になります。 トラウザースのお尻の縫い目には多くの縫代が残してある事に同じなのです。   ですから確りと役割を担ったポテンシャルである事が分かりましたね。 長く着る事を前提にしたBESPOKE SUITSには未来へ託された 秘めたるポテンシャルが本当に沢山内蔵されており、 それらは全てに連動してるのですね。           では ここで矛盾なケースを垣間見てみましょう!         高級で謳われるテーラードな上着には 良く見受けられるディテールの一つが「上襟のヒゲ」です。 ですが、その上着の肩縫い目にはポテンシャルとなる縫代が BESPOKEの様に付けられていますか⁉ (肩線を指でなぞれば段差で その縫代量が判断できます。)   もし一般的な一縫代だけでポテンシャル分が付けられていなければ、、、、 そのヒゲは 『 絵に描いた餅 』 である事が見抜けます。   このようなケースはヒゲ以外にも沢山ありますが、 表層的なディテールだけをBESPOKEの様に真似をしていたとしても 全く意味がない事がお分かり頂けますね。   私は服(衣)の専門ですが、 食でも住でも同じような事柄が沢山ありそうで、、、(汗)。     私自身も含め消費者方も学び、利口にならなければなりません! という戒めで今週は締めましょう(笑)。                   肩の地縫いが終わり、殺し込んで肩据え、 次はいよいよ襟のパートへ入ります! 今週はこの辺で終わりにさせて頂きます。     技術論は文字ばかりでつまらないかも知れませんね。 ですが、リアルにハンドメイドで仕立てられたBESPOKE SUITSとは、 最高のステージを誇るBESPOKEとは、、、見合う高き技術、 そして沢山の時間を有して仕立てられているのです。   今は昔の様に誂え服は子へ、孫へ とはなり辛いでしょうし、 生地もそこまで耐え得るヘビーさがありません。 しかし、既製服含め使い捨ての服ではなく あくまでも何十年と人生を共にする相棒は クライアントの人生に寄り添って愛用し続けられるよう確りと仕立て上げられ、 表には見えぬ高きポテンシャルを秘めて仕立て上げられているのですね。       普段御愛用されている洋服の内部構造が垣間見られる事は 興味深いのではないでしょうか。 と、勝手に思い 一生懸命書いておりますので また続編もお付き合い頂けましたら幸いです。         今週も最後までお付き合い頂きまして、誠に有難う御座いました。 皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。            

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