【 TAILORING-3 】
2026.04.21技術について

Sir Winston Churchill
見事なまでに堂に入った着こなしは流石としか言いようがありません。
なんて普通で自然な佇まい、なんてエレガントなのでしょう、、、。
恰幅の良さ(体形)も個性でもあり、
御自身をよく理解し、許容し、素直である事。
TAILORはただその個性に寄り添い、
ご注文主様がより引き立つような額をお仕立て致します。
お年を召されれば体型変化は当たり前の事であり、
理想を求めれば相応の努力も必要です。
そんな理想的体系から外れてしまえば
現代の既製服では対応できる訳がありません。
お身体のサイズに合ったクラシックで適正なカット(型紙)、
それを高次元で立体的に仕立てる技術、誂えでの当たり前な事だけで
ここまで魅力的で格好良く魅せてくれるのです。
当時は今よりも誂えが当たり前であったからこそ、どんな体型の方でも
適正なサイズで美しくエレガントにスーツを着こなされておりました。
ダークトーンなので分かり辛いですが、トラウザースはストライプを合わされております。
https://dittos.seesaa.net/article/513613975.html
【 BLACK LOUNGE SUITS ③ 】

そんな注文服を仕立てる TAILOR が使用する道具類ですね。
イラストは随分と古い時代ですが、Gooseとありますね、ガチョウかい⁉
ガチョウの首の形状より Goose Iron と呼ばれていた時代だそうです。
アイロンと言えば今や電気が当たり前、
その前はガスホースを直接繋げて使うガスアイロンでした。
電気はサーモスタットが付いて温度管理をしてくれますが、
ガスは栓を絞るしかなく とろ火にしていると
気付けば消えてガス臭くなったものです。(着火はマッチ!)
鉄の塊であるガスアイロンの構造は本当にシンプルで
電気の様にまず壊れる事はありませんでした。
温度が上がり続けるので常に下げながら使うのですが
油断すれば焦がしてしまったものです、、、
もう軽く30年以上前の話になります。
とても懐かしいですが、案外職歴長いな! と今 自分で思いました(笑)。
この時代は更に遡り、取っ手の付く天井がカパッと開く蓋になっていて、
中に炭を入れて熱していました。
アイロンの進化を見ただけでも凄いですよね、その点 鋏は大きな進化が無く
それだけ究極に完成されたデザインなのですね。


さて、続きを書こうと思いつつも、気付けば早くも半年が経過していました。
今週は TAILORING の続編を書かせて頂きたいと思います。
かなり途中からとなりますので、
下記前編よりお読み頂くと 工程の流れも分かりやすいと思います。
https://dittos.seesaa.net/article/518725887.html
【 TAILORING-2 】

芯据えの後、ラペルハ刺し、端打ちテープカラゲまで進行していましたね。
次は身返しを地縫いして返し、身返し据えから見て参りましょう。
( 据える=物を動かさないように配置・固定する )
気付いて撮影した写真があるだけ、、、とはなりますが、御了承願います!
写真はもう地縫い返しして据えまで終わってしまっていますね、、、(汗)。
ここまで来ると上着の顔が見えて参りますので気分もかなり盛り上がるのですよ!

ラペル(下衿)は折り返された状態を前提に仕立てられています。
そのラペルが綺麗にロールして身体に寄り添うよう
『ハ刺し』によりクセ付けされています。
身返しはそれを覆う訳ですが、内側(身体側)から部分的に返り線で
折り返される訳ですから重要なのは『外回り量』です。
折り紙を綺麗に角と角を合わせて折り、更にもう一度、更にもう一度。
どんなに気遣っても100%ズレが生じて参ります。
これが物理的な内回り・外回りであり、車が曲がる時の内輪・外輪差に同じです。
この外回り量が不足しているとペタッと平面的で
折返す事は出来たとしても、ラペルの内側に皴が寄ります。
距離が足りていませ~ん という訴えでり、内回り側に歪が生じる訳です。
その服の生地の厚さやラペルのサイズなど含め、培われてきた経験による感覚と
手加減により その外回り量を与えながら躾で据えて参ります。
また、土台となる前身頃側のラペル(芯地)はハ刺しで強制的な内巻力が掛けられているので
焼いたイカの様に逆側へ反り返るような事は絶対にありません、させません!

躾を外し、部分プレスで綺麗に整わせた状態であり、
これからホール含め部分まとめです。
(まとめとは手縫い工程を指す業界語です。)
本来では仮縫いを行いますので そのまま全てを組み上げるのですが、
仮縫いが終われば分解し ホールなどはパーツとして小さい
(型前身頃のみ状態)時の方が本来圧倒的にかがりやすいですね。
分業制のお店だと「まとめ屋さん」に託しますから
ほぼ全てを組み上げきって託します。
綺麗なロール(返り)が見て取れますね、角(刻み部)はハ刺しの向きを変え
更に細かく、、、その効果が具体的にも見受けられます。
ノッチドラペルのエッジ(端の出来上り線)は緩いカーブ線を描きます。
≪ピークドラペルはもっと強いカーブ線を使います。≫
そのエッジのカーブに合わせ、直線であるストライプや
織柄を平行に据えて地縫いされています。

ラペルから下、フロントカットから裾部(内側)ですね。
身返しのここの部分は縦方向に敢えてユトリ(イセ込み)を入れ込んでいます。
とても大切な理由があるのですね。
ユトリを入れれば皴に成りますが、その皴を綺麗に入れ込み 躾で据えたのち、
身返し幅の中心付近へ中星縫い(ダレぬよう、遊ばぬよう、ポジション維持)、
エッジ(出来上り線)から二分星縫い(尺貫法値:約7㎜/内部縫代の安定・固定)、
そして前端鼻っ面へ鼻星縫い(エッジの飾り兼浮を押え固定)が縫われています。
そんな身返しの左端、縦方向に打たれた白い糸(躾糸)は印兼用の躾であり、
ここに裏地を被せてくるラインとなります。
手縫いのまとめ工程が終われば部分プレスで馴染ませ、やっと現写真の状況となります。
フロントカットのエッジをご覧下さい。
お皿の様に反り返っていますね! 人間を円柱に例えれば、着用時には
その円柱を限りなく巻き込む様なクセを生じさせるテクニックが内蔵されております。
これは仕上げプレスで程好く目立たぬ程度に馴染ませますので、
お仕立て上がり時には微かに感じるかどうか、、、
こういったポテンシャルが内蔵されて仕立てられているという事が重要なのです。
この様な行為は専門技術者であるTAILOR以外の方々は知る由さえ無いでしょう。
正に調理人が施す「隠し味、隠し包丁」的でもありますね。
ですからラペル同様 ここも逆に(外側に)反り返るような事は
決してありませんし、あってはなりません!
お客様方はこんな所、気にした事すらないですよね 当たり前です(笑)。
TAILORの仕事には見えない所でどれだけの手が加えているのか、、、
それがこの先数十年に渡り型崩れする事もなく活きてくるのです。
単に手縫いが偉い訳ではありません、縫いも必要ながら据え工程や
手加減的なテクニックがそこら中で発揮されているのですね。
『 God is in the details 』 としておきましょうか!


ハイ、では穴かがりです!
もはや老眼鏡は欠かせなくなってしまったお年頃、、、。
シャープで均一、そして美しきバランスである事、
ホールだって重要なデザインです!
そして周辺生地を決して歪ませない事、長年使用の摩擦で糸が切れる事があっても、
ボソッと身頃からバレるような事があってもなりません。
ホールはかなり性格が出ますから大抵の場合 ホールを見れば
かがった方の仕事への姿勢や価値観、内容もそれなりに分かるというものです。



次は前身頃に裏地を据えて参ります。
光沢も特徴なヴィスコースの裏地です、
随分と海の様にうねうねと波立っていますね!
勿論意図的に縦横へユトリを入れています。
これ、、、とても重要なのですよ。
表地であるウールには柔軟性がり、それなりに伸びます・動けます。
しかし、裏地は伸びません・動きません、、、であれば表裏1:1では
表地のポテンシャルを使えずに裏地の面積JUSTで動きがロックされてしまいます。
そうです、型紙サイズが仮にユトリ無きJUSTサイズでの裏地と見立てれば、
表地のウールは裁断上では同じく型紙サイズでも +α を持ち合わせているのですね。
その余力に付き合える余分(これがユトリ)を裏地には加えておかなければなりません。
(こういった物理的なユトリに加え、
各縫い目ではキセという折襞でも遊びを作ります。)
もう一つ、当店では予め縮絨した裏地を使用していますが
ヴィスコースやキュプラなどのレーヨン系裏地って驚くほどに縮むのです!
中間工程から仕上げまで、幾度となく熱やスチームも吸う事でしょう。
可愛らしいユトリ分量などでは 縮んで完成前に使い切ってしまうかも知れませんよ。
更に納品後、お客様はクリーニングに出されるかも知れません!
本来ではクリーニング自体をお勧めしませんが、そうも参りません。
縮絨していない裏地を使用し、更にユトリを入れていない(足りない)
据えで仕立てられていたら大変な事に、、、、考えたくもないですが、
BESPOKEは何十年と着用する事を前提に考えられていなければなりません。
このユトリを入れ込んで身返しに手縫いで縫い付けて参ります!
多くのTAILORでは星縫いによる縫い付けが多いでしょう。
もし その縫い糸が切れた場合、単純な鼻まつり縫いより
星縫い(返し縫い)の方が解れにくい(広がりにくい)のです。
これを模して工場さん製ではミシンで裏地と身返しとを地縫い後、
片倒してピックミシンで縫われています。


あっ、もう背裏地据えまで来ています(笑)。
前身頃に裏地を据えたら後身頃と合体、背脇の地縫い、縫代処理。
同時進行で背中の裏地も同工程で進めます。
左右にある背脇縫い目、この縫い目に伴う縫代どうしを中で軽く、緩く、
動けるように縫い留めておきますが、これを中綴じと言います。
様々な動きに対し、表裏でそれなりに連動させておく事が目的です。
現状では表裏は互いに脇縫代でしか定まっておりませんので、
背中心から肩回り、裾周りへと躾で表地に裏地を据えて参ります。
裏地は波が凄いですよね、与え過ぎもダメですが
不足よりは正義という加減で判断します。
故に 打ち込み緩く柔らかい表地の場合は この波(ユトリ)は沢山必要となる訳です。
あっ、同じ理屈な例を思いつきました!
当店ではお勧めしませんが、最近巷では随分と意図的に
ストレッチ性を持たせた生地が増えています。
天然素材のナチュラルなストレッチ性ではなく、強制的に産み付けた性能です。
当然 運動に対する追従性は高く動きやすさに直結します。
これ、、、通常のミシン糸では追従できずに必ず切れてしまうと思います。
(ある程度なら独特のテクニックで補う事も可能です。)
無意味ですね、ですから本来では縫い糸自体もストレッチ性のある専用糸
(レジロンなど)で縫わなければ整合性がとれません。 と、考える事が出来ます。
ですが、この例に関し もう少し付け加えると、
ストレッチ性は縦方向ではあまり伸びずに横方向に特化しています。
多くの縫い目は縦方向ですから そこまで大きく干渉しないかも知れませんが、
捉え方としてお話してみましたが、、、余談でした。


因みになのですが、この写真は『完成後』となる写真です。
あれだけ入れた裏地のユトリ、、、、そのまま安易にプレスすればギャザーの様に
所々折り畳まれ、折代による段差も生まれてしまいます。
仕上げのアイロン時、畳まれないように例のユトリを綺麗に入れ込むと波紋の様に、、、
小さく分散した波、風もなく穏やかな天候の日に見る湖程度に収まりますし、納めます。
これだけ縦方向のユトリを内蔵しているというポテンシャルを持ち合わせているのですね。
(横方向にも勿論ユトリは入れております。)
この他に裾部、そしてダーツや脇、背中心等の縫い目を利用し「キセ」も掛けます。
キセとは折襞であり、その襞は引っ張ると広がるので
動きという 伸び に追従出来る第2のポテンシャルとなります。
正にハイブリッドで表地の性能を余す事無く、
更に縮みへも十分に対応出来得る事になります。
裏地を軽視してはならない事が伝わりましたでしょうか!

脇が入り、裏地据えも終わりました。
次は肩入れです! 皆様、ついてきてくれていますか、、、
今週はここまでとさせて頂きます。
長かったですね、お疲れ様で御座いました。
マニアックにかなり専門的で具体的な内容ではありましたが、
手作りのスーツは何故時間が掛かり、どうしてこんなにも高いのか、、、。
そして平面な生地が立体的に構築され、
美しきシルエットと動き易さが可能となるのか。
そんな素朴な疑問を持たれた方々であれば 少しずつでも
ご理解が進めばそんなに嬉しい事はりません。
同じステージとなる BESPOKE SUITS という括りでみてもお店違えば
工程数(手間の掛け方)や手法、技術力などが全然違いますし、お値段も違います。
高品質な良いものには往々にして工学にはなりますが、
必ず裏付けとなる理由がある筈です。
それらを必要な時はいつでも自信を持って
ご説明出来なければ説得力もありませんね。
お仕立て上がり、ご注文主様へお納めする時は各所様々なポテンシャルは
ひっそりと馴染まされ、気付かれぬ程に冷静で涼しい顔して嫁いで参ります。
能ある鷹は爪を隠しているのですよ!
では次の技術論更新まで暫しお待ち下さいませ。
・・・・・誠に恐縮ながら、来週のBLOG更新はお休みとさせて頂きます。
次の更新は 5月5日(火) の予定となります。
また、GWの期間に付きまして
当店は通常営業であり、お休みも定休日(火曜日)のみとなります。
いつでもお気軽にお声掛け頂けましたら幸いです。
どうか引き続き宜しくお願い申し上げます。
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