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Bespoke Tailor Dittos.

【 DOBCROSS 】

2023.02.28生地に付いて

 

 

 

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1975年 PRINCE OF WALES.

現英国王の若かりし頃、バンカーストライプで仕立てられた

クラシックなダブルブレストのスーツは正に英国らしいお手本の様なエレガントさです。

 

 

 

 

今と比べれば この当時のスーツ着用比率は俄然高く、

多くのメーカーが競い合うように素晴らしい生地を織り上げていました。

 

70年代後期から80年代初頭にかけて織り上げられたという

貴重で極上なVINTAGE SUITINGを幸運にも沢山仕入れて参りました。

多くの生地メーカーは少しでも他社との差別化を図るべく、

切磋琢磨しながら極上のネタを世に送り出してきたのです。

 

その数少なき大変貴重なVINTAGE SUITINGは ご縁もあって当店に、

そして目の肥えた顧客様の元へスーツとなって嫁いで参りました。

( いくつか改めてご紹介させて頂きますが、その全ては完売済みで御座います。)

 

 

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当時の最高スペックであったスーパー100や120、

GOLDEN BALE等のウールを主体として、更に貴重で希少、

極上で高価な獣毛をスパイスに味付けをして

独自の高級感を出した生地が沢山織られていました。

カシミア、そしてヴィキューナ、セーブルやミンクなど とんでもない味付けですね。

 

 

当時はネームも凝っていて味わい深く、生地の織端に付くミミ表記の部分にも

金糸が使われ あからさまなアピール度はパンパではありません!

 

少しでも目立つように、他メーカーよりもゴージャスに。

当時はそんな極上生地も豊富で選択肢は多くて羨ましくもあります。

 

旧型織機を使い、時間を掛けて風合いを最大限に生かし、、、

いや、当時はそれが普通であり、今見ればそれが通常運転でのクオリティーなのですね。

以降 高速織機の開発によりグッと生産性は上がりました。

手間のかかるフィニッシングもどんどん効率化されて参ります。

時代の流れにより、当時の普通は最早再現できなくなってしまいます。

 

これらヴィンテージの生地たちは当然ながら減る一方であり、

無くなったら終わりです。

超有名なマーチャントでは往年の名品の名を冠して復活させていますが、

同じ生地を織る事は残念ながら不可能です。

 

 

 

 

 

・・・・・さて、前置きも十分にお聞き頂きました。

実は今週ご紹介したいのは、上記でご覧頂きましたレベルの生地を

出来得る限り現行品で再現を狙ったとも言えますでしょうか、、、

そんな素晴らしい極上なスーチングをご紹介させて頂きます。

 

 

 

 

 

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John Cooper & Son

DOBCROSS

 

98% Super140s‘

1% Cashmere

1% Silver Mink

 

340g

 

 

英国地らしく、縦緯共に2/2で織られた双糸使いは

Super140s‘の原毛を60番手に引き揃えられています。

 

これは本当に素晴らしい!!

この生地のデビューはつい最近という訳ではありません。

最高であろうと思いつつも、やはり調理してみて、

したからこそ実感を踏まえお伝えしたいのです。

なにぶんご注文が入らなければ調理自体は味わう事が出来ませんので!

 

 

 

 

 

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細くて高級な原毛は140、細すぎないところが絶妙です。

品のある艶感、きめ細かな肌感は触れば誰もが納得するでしょう。

このシットリ感はたまりません、、、、かなり打ち込みも意識して織られ、

使いやすい3シーズンウエイトに落とし込んであります。

 

品のある光沢感やシットリ感と共に、適度なハリとコシ、

独特な風合いは贅沢なスパイスが利いているのでしょうか。

それともドブクロス(旧型織機)の成せる業なのか、

多分両方の相乗効果によるものなのでしょう。

 

 

 

 

【 DOBCROSS 】

 

ドブクロス、生地好きなお方は耳にされた事があるかも知れません。

昔ながらの低速織機であり、木製シャトルを使った織機でもあるマシーン名であり、

発明された村の名前に由来します。

 

この織機は1800年代後半から1960年あたりまで生産されていましたが、

世界大戦後からの技術革新によって より高速な新しい織機へと移り変わって参ります。

現在 稼動出来るその織機(ドブクロス)は既に世界で14台しかなく、

丁寧にメンテナンスを続けながら細々と最高の生地を当時と同じように織り上げています。

 

ドブクロスと言えば英国の老舗マーチャントでもある John Cooper が有名であり、

正確にはHolland & Sherry がドブクロスの登録商標を持ちます。

 

そして厳密には H&S社が運営しているハダースフィールドにある

DOBCROS WEAVING COMPANY がその14台を稼働し、

ドブクロスで織りあげる世界唯一の工場(ミル)となります。

 

 

熟練の職人が木製シャトルを使い、高速織機と比べれば

6倍もの時間を掛けて織り上げられています。

高速と比べれば糸へのテンションが全然違いますので、

当然 その風合いは格別であり、生産性を優先した織機では到底かなう訳がありません。

その代わり、当時としては当たり前であった旧型織機を

あえて使う事は付加価値性も高くなります。

 

 

 

 

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原毛の細さを表す『 SUPER 〇〇 』という表記、

今では Super200‘sを超える極細もありますね。

ウールでは一番代表的でもあるメリノ種の羊から毛を採取すれば、

その採取可能限界が120‘sくらいと言われています。

刈り取られた毛の中で、ごく一部 本当に僅かしか取れぬ

うぶ毛の様な原毛を寄せ集めて糸に紡績されたものが

数値の高いSuper表記となりえます。

 

上記でご覧頂いた VINTAGEの数々、

当時ではスーパー100と言えば最高レベルです!

中には極一部の希少性高き原毛を使って 120 です。

 

 

この数値が高く成れば良いという訳でもありません。

最高のなめらかさや肌触りは勿論極上で 享受できる特質ながらも、

やはり皴になりやすくて耐久性も落ちます。

実用的ではなく、お値段含め 特別で贅沢な方向へ向かうという事ですね。

 

もう一つ重要なのは、スーパー表記と織り糸の番手(太さ)

これは全く違います。

例えば、高スーパーな原毛を使いつつ、太い糸に紡績すれば

軟な脆弱性は回避できる方向へ働きますし、織り上げる打ち込み密度でも

ハリ・コシをレベルアップする事も出来ます。

このバランスが難しい訳ですが、私個人では一般的実用品レベルとしてみれば

スーパー150以下が望ましく、100~120レベルはむしろ丁度良いと思います。

 

そうみれば 140 は贅沢でヴィンテージの時代には

無かったステージの原毛を使用している辺りは現行品ならではですね。

ですが高番手にみる軟さを感じさせません。

 

 

 

 

 

・・・・・極上な生地はお陰様で沢山扱わせて頂きました。

最終的には料理人が調理してみて 実際に具合を確かめたくなるものです。

その道のプロが『これは美味しい、是非皆様へ食べて頂きたい!』

と思えるかどうかです。

 

 

 

 

12dc

 

 

光栄にもT様よりご注文頂きました。

やはり凄いです、BLOG掲載にもご了承頂いておりますので

近いうちにご紹介させて頂きたいと思います。

 

写真だと存在感や放つオーラがいまいち伝わらないかも知れませんが、

しっとりとしたキメ細かな肌感や 品のある艶感は感じられるのではないでしょうか。

 

 

 

 

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良い生地は 切っても縫っても心地よく、クセ取りも良く効きつつ定着率も高い。

これは正に現行品での最高スーチングの一つであり、実用的範疇にも入ります。

このレベルですからお値段は安くはありませんが、

その価値は十分にあると自信をもって言えます。

 

 

誂えスーツは興味なき他人様から見れば 自己満足的な側面が強いものです。

例えばネイビーのソリッドスーツ、誰しもがお持ちでしょう。

そんな当たり前のダークスーツに対し、最高の食材と、最高の調理を施し、

自分の為だけに料理された食事の満足感は計り知れない事でしょう。

 

そんな満足感を身に纏い、身体に合っているのに動きやすい着心地を堪能しつつ、

その美しきエレガントなシルエットや品のある風合いは

ご自身にとってもどれだけ前向きな気持ちや自信に繋がるでしょうか。

 

スーツは額の役割であって あくまでも主役はご本人様です。

そのご本人様を内面からも含めて より輝かせてくれるのですから

他人様からの印象も良い意味で変わるはずです。

 

 

 

 

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全6種展開されています。

生地自体の写真、T様のお仕立て上がりも含め、

この写真では一番上のダークネイビーとなります。

 

中段は結構明るく見えますが、それは写真のせいであって

極一般的なネイビーと思ってください。

そして下段のチャコールグレーと続きます。

 

 

 

 

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上段・中段と 先に同じ糸(色)を利用したダークネイビーと

チャコールグレーのクラシックなヘリンボーン柄です。

そして下段は 唯一の黒、タキシードクロスとの事です。

 

(タキシードクロス、分かり辛い名ですね。

フォーマル地の雄と言えばドスキンやバラシアが挙がります。

双方の起毛感や織り地感のない中肉レベルのフォーマル用服地を

総称して呼ばれており、タキシード専用生地という訳ではありません。)

 

 

 

 

 

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具現化すれば安くはないこの生地も、

ご納得頂けるであろう説得力を持ち合わせています。

しかし、昨今の様々な状況を垣間見れば 継続的に織り続けるのは難しいそうです。

質を下げてまで継続させる気は毛頭ないとの事であり、

このシリーズもそんな先ではない頃には買えぬ生地となってしまう事は明白です。

手に入るうちに是非手に入れておくべく生地の一つであるとお勧め申し上げます。

 

数十年先、もし在庫を保有していれば間違いなく

極上ヴィンテージ扱いの生地となる事でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・以上で御座います。

良い事も沢山あるでしょうが 効率化の波による品質の犠牲、、、、

人間の手が生み出す価値を再認識する上で

少しでも多く残したいものですが、それを阻む問題が多い事も事実です。

 

質の良い羊毛や獣毛を入手するところから考えれば、

本当に多くの方々が携わって生地となり、そして当店にやって参りました。

生地は洋服として仕立てられ、皆様に着用して頂く為に生み出されてきたのです。

 

 

 

素晴らしい生地、個性豊かな生地、、、それぞれに魅力も違います。

そんな個性派揃いの生地たちへ会いに、

皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

 

今週もお付き合い頂きまして、誠に有難う御座いました。

 

 

 

 
Bespoke Tailor Dittos.