【 HOUSE STYLE ORDER① 】
2018.02.27技術について
皆様、こんにちは。
いよいよ寒かった2月も明日で終わりです。
3月になればもう少し春らしさが感じられてくるでしょうか。
では、早速 今週の本題に参りましょう。
作れば売れた時代、スーツも既製品のシェアがますます広がりました。
そんな頃と比べれば、こと紳士服におきましては随分と『 オーダーでスーツを作る 』という事が増えて参りました。
今ではセレクトショップやデザイナーズブランドに至るまで参入しておりますね。
在庫リスクを抱えるのであれば、オーダーは受注生産ですから そういったリスクを回避できるという事は大いなる理由の一端でもありましょう。
また、昔ながらの所謂フルオーダーばかりではなく、イージーオーダーの進化も見逃せない事実です。
消費者の方々におかれましては 選択肢が増えた事は良い事ではあるものの、
どこで、どの様な、どの位のレベルなスーツを作りましょうか、、、。
その普及した『 イージーオーダー 』という形態に着目してみます。
デザインや仕様、品質や値段も本当に様々であり、それらお店の(作られるスーツの)スタンスやグレードもある程度理解しなければなりませんね。お値段にも直結して参ります。
採寸から補正のレベル(型紙作成)、仕立てる上での品質(縫製)、その前に御注文を頂く際に伴う打ち合わせの時点でもお店によって差がありましょう。
(良い・悪いという括りでは無く、お店により 出来る事・出来ない事の差がとても大きいという事になります。)
さて、弊店で扱わせて頂いております HOUSE STYLE ORDER につきまして
国内屈指の腕を持つ工場さんにお世話になりつつ、皆様へ少しでも満足度の高いスーツを御提供出来るよう精進しております。
顧客の皆様におかれましては 多大なるご高配を賜りまして、心よりのお礼を申し上げます。
工場さんからしてみれば、私からの要望は高く、そしてうるさく、付き合いの楽なクライアントで無い事は確かでしょう。
これは技術者たるTAILOR目線であるという事と共に、高いポテンシャルを持ち 大いなる伸び代がある工場さんだからこそです。
もう本当にお世話になっておりまして、つくづく感謝するばかりです。
しかし、仮にですが 日本国内に限らず、世界一の縫製工場さんでHOUSE STYLE ORDERを仕立てて頂いたとしても 私にはきっと満足出来ないでしょう。
それは当たり前な事でもありますが、BESPOKE TAILORが満足出来るレベルを
そもそも大量生産を前提とした縫製工場さんで期待する事自体に無理があります。
普通車を生産するライン工場でF1マシンは作れませんね!
それぞれの意図に伴ったステージが存在します。
それは イージーオーダーのカテゴリーでも、ビスポークのカテゴリーだとしても、それぞれの各カテゴリー内で更にステージがあるのです。
では、そのイージーオーダーというカテゴリー内で具現化出来得るハイレベルなスーツを仕立てて頂いても、まだ満足出来ぬのであれば それは自分自身である程度補うしかありません。
その一端となるのが弊店 HOUSE STYLE ORDER の仕立て上がりに行う『 2次加工 』となります。
市販車を改造し、競い合うレースがありますね。
チューンナップ(アップ)をして、少しでも多くのパワーと共に、スピードを出したい訳です!
そのチューンナップを行えるのは技術者であり、テクニックなのです。
(これも そもそも基たる車なりスーツのポテンシャル自体も高い方が良い訳です。)
今週は、そんな風景を 2回にわたってご覧頂ければと思います。
とある日、工場さんより 仕立て上がりホヤホヤのスーツが3着届きました。

とても綺麗な仕上がりです!
手前のスーツは、弊店オリジナルのGOLDEN BALEによる三つ揃いです。
大変御贔屓を頂戴しております H様よりご注文頂きました。
真ん中、そして奥の2点は、同じく多大なる御贔屓を頂戴しております S様より
H.LesserのVINTAGE、同じくVINTAGE MOXON:GOLDEN BALE による三つ揃い2点口で御座います。
最高の生地にて、HOUSE STYLE ORDERの最高スペックでお仕立て頂きました。
これからプレスをしながら、検品や検寸を行って参ります!
今週は TROUSERS から御紹介させて頂きます。

・・・・・先ずは表裏引っくり返します。
糸くずや糸始末不良、袋地や膝裏の具合を確認しつつプレスして参ります。
この部分は、ウエストの内側です。
手前がW-BAND裏となる腰裏、接がれて繋がっている奥のスカートが腰幕と言います。
大抵は『マーベルト』と呼ばれるインスタントで簡易な腰裏専用の裏帯が使用される部分ではありますが、BESPOKEの様に腰裏と腰幕に分離し、深くまで確りとホールドさせるようにしてあります。
プリーツ(折り襞)が見えますね。
これは必ず必要であり、この襞によってウエストとヒップの差寸を補っています。
そのプリーツ分量が適切でなければ 綺麗に折り直しです!

・・・・・お尻の部分です。写真上部が尻縫い目であり、ウエストサイズが出せる様に沢山の縫代が付いていますね。
脇や尻縫い目なども確りと縫代を割り直し、後側のクリースライン(センターの折山線)を一度 途中まで消します。 自分で改めて付け直すからです。

・・・・・ここは股の部分です。
左側にグレー裏地が見えますが、前身頃裏であり膝裏地です。
内脇縫い目を挟んで尻側の後身頃です。
股の部分は、尻と内脇の縫代が十字に重なります。
黒い半月型の股シックはボロ隠し(縫代隠し)と共に、余計な摩擦を軽減しつつ、補強も兼ねた大切なパーツです。
尻グリの縫代処理をクセ取りで確りと行いつつ、股シック周りもバッチリと潰し直します。
この辺りは股周りのスッキリ感や収まり具合が全然違って参りますので穿き心地にも大きく影響致します。
・・・・・表に返しました。
左側の外脇縫い目部分です。 フロントは1-PLEATのデザイン、脇はスラントポケット、尻ポケットは無しでのご注文です。
脇ポケット口 と 向う布 は確りと柄合わせされて綺麗に仕上がっています!

ですが、ここからが重要な所です。
NO-PLEAT や 1-PLEAT の場合、どうしても脇線自体はカーブの度合いが強くなります。
『 綺麗に、正確に仕立て上げた 』 ここまでが工場さんの役割です!
ここからクセ取りを行います。

・・・・・スッキリと直線だった縞が、カーブを描いているのが分かります。
強制的に曲げているのですね。
脇縫い目を見て下さい。 先の写真では縫い目自体がカーブしていましたが、縫い目を直線的にしつつ、そのボリュームを前後に振るのですね。
この操作により、脇ポケット口は少しイセ込まれます。
これで、穿いた時の脇への馴染みや吸い付き、そしてラインまでもが雲泥の違いが出ます!!

・・・・・脚に参りましょう。
極一般的ですが、、、ストローの様に真っ直ぐでストレートな脚筒です。
H様におかれましては、後身頃の股部に共地補強布を付けられました。
ここから脚のフォルムに合わせて曲線にします。
ふくらはぎのボリューム考慮ともよく言われます。勿論それも有りますが 多くの方々は棒の様に直立では無く、ある程度反った状態でバランスを取られている方が少なくありません。
勿論 度合いの個人差は大いにありますが、その御方の姿勢であり、自然体がそうでもあるという事です。
言葉で言えば反身体となりますが、結構な比率の高さですね。
誂えスーツは その方の為だけに仕立てられるのです。
クライアント様の体形に素直に寄り添います。

・・・・・マジックの様ですが(笑)ある程度のライン成形が終わると、蓋をします!
当て布ですね。 スチームの透過が良い平織ウール地を使用しています。
(これも起毛系やテカる生地などは当て布の種類を変える必要があります。)
ウールは、水と熱と圧力によって成形できます。
この融通性・柔軟性を生かし、様々な技術によって立体成型するのがクセ取りであり、テーラードです。

・・・・・バッチリとクセ取りができ、立ち姿勢と共に、脚のフォルムやふくらはぎのボリュームなどを加味された形状になりました。
真上からでは無く、斜に写真を撮っているのでより顕著には見えますが、
「取り過ぎでは、、、そんなに曲がってないよ!」と思われる方も少なくないでしょう。
その通りです! これは故意的にわざわざ過剰なラインを作り出しています。
何故でしょう!?
皆様もご存知の様にウールには復元力があります。
クセ取りされたこの現状態からある程度は戻ってしまうので、それを見越している訳ですね。
また、HOUSE STYLE ORDERはどうしても後付けでクセ取りを行う為に、戻りやすいとも言えます。
BESPOKEの場合は もう裁断直後から、組み立てる工程の間ずっとクセ取りし続けます。
仕上げまでずっと意識され、そのフォルムを維持しようと仕立てられます。
故に 後付けより何倍も戻り辛く定着率が高いのです。

・・・・・ストローの逆足を下ろして重ねてみましょう。
どれだけ意図的に下げて曲げているのかがお分り頂けると思います。
これにはもう一つ大事な考慮がありますが、、、、、もうキリが無いので ここまでにしておきましょうね。

・・・・・逆足も同じ様に、同じ位にクセ取りです。
直線である筈のストライプをご覧ください。縞柄なので分かりやすいですね。
前後クリーズライン(前後中心の折山線)ですが、単に紙同様 畳めばその折れ線は直線ですし、縞も当然ながら直線ですが、ここまで川の流れの様にカーブ線を生み出します。
ウールの生地はこの様に息を吹き込まれ、立体的に成り、身体に合わされていくのですね。
・・・・・今回 H様よりお預かりしておりました お直しのトラウザースも新しいご注文のスーツと共に上がって参りました。

これから同じく2次プレスをかけますが、、、脇縫い目に対し 直角に横皺が見えますね。
工場さんかからはハンガーに掛かって納品されます。
運搬中にトラウザースが落ちぬ様、ぐるりと一回り引っ掛けられて納品されます。
ハンガー皺、、、これは回避出来ませんし、仕方のない事です。
弊店では2次プレスするので別に良いですが、店内にアイロン設備の無いお店ではどうしているのでしょうか!?

・・・・・沢山ご愛用くださったからこそ、、、尻縫い部分が摩擦により 擦り切れてしまいました。 その修繕でのお預かりです。
カケハギも一つの手法ですが、工賃と工期が結構かかります。
それ以外で一番単純で簡易に修繕を行えるのは、この様に裏に充て生地をし、同色ミシン糸で確りと補強しつつ縫いつぶすのです。
カケハギと比べれば見た目の綺麗さは歴然です。
ですが、股部分ですから穿いてしまえば見えません。
お直しにも様々なテクニックがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
考えられる選択肢を全て御説明させて頂き、ご相談の上でその手法を御選択頂きます。
H様、新しいご注文は補強布を付けておりますので安心ですね!

・・・・・S様のトラウザースに参りましょう。
同じく裏側に引っくり返し、、、
!!!!
これは脇ポケットの袋地です。 たまに有り得ます。
確りと綺麗にプレスしますので大丈夫です!
検品、そしてプレス、欠かせないと言いう事が良くお分り頂ける事と思います。

・・・・・同じく股の部分です!
S様も内股補強布をお付け頂いておりますね。
S様は身長含めお身体が大きいので、トラウザースも当然大きいです!

・・・・・シルエットが太ければ太い程、足のフォルムを追いかける度合いは減ります。
それだけ筒が太いので、脚のフォルムはキャンセルされる事になります。
しかし、立ち姿勢考慮は別ですので度合い自体もお客様、そして構成されているシルエットによります。

・・・・・トラウザースが全て終わりました。
良くあるプラスチックハンガーは、バーの所が2本で出来ているので運送の際に落ちない掛け方が必要でもあり、ハンガー皺を生み出します。
このハンガーは滑り止めがバーに付き、落下防止は押さえるゴムを使用するのでハンガー皺入らずです!
・・・・・如何でしたでしょうか。
近々には、ウエストコート、そしてジャケットの2次プレスを御紹介させて頂きたいと思っております。
スーツを仕立てる上で、あるべき姿でもあるフル・ハンドメイドのBESPOKEというレベルがあり、それを理想と掲げれば HOUSE STYLE ORDERにもどれだけの技術と手間を落とし込めるのかが品質向上のカギでもある訳です。
物作りは 追求すればする程にキリがありません。
今回はこの辺りまでとさせて頂きます。
皆様の大切な御注文の品は、こうやって1点1点大切に、そしてパーソナルな対応のもと お手元に渡ってゆきます。
平素より、素敵な御注文を頂戴致しまして誠に有難う御座います。
・・・・・誠に恐縮ながら、来週のBLOG更新はお休みとさせて頂きます。
申し訳御座いません。
次回は、3月13日(火)の予定となります。
どうか引き続き 宜しくお願い申し上げます。
今週もお付き合い頂きまして、誠に有難う御座いました。
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